吊戸棚

昔はキッチンといえば吊戸棚が設置されることが当然!という時代がありましたが、最近では吊戸棚を設置しないお宅も増えてきました。

ベテラン主婦からは「物入れるとこがないやん」
若いご夫婦からは「ない方がスッキリするやん」

と、それぞれ意見が違います…
私たちがときどき板挟みになります…

そこで今回は「吊戸棚ははたして いるのか、いらないのか」という論点でお話していきたいと思います。

そもそも吊戸棚とは?

いわゆる吊戸棚とはキッチンの上に設置される収納棚で、カタログには多くのキッチンメーカーで「ウォールキャビネット」と記載されています。

昔台所と呼ばれたキッチンですが、当時キッチンといえば壁に向けて設置するものという概念しかなく、ゆえにその考え方に沿った製品しかありませんでした。

想像していただくとわかると思いますが、キッチンキャビネットを壁に向けて設置したとして、その上のスカスカな壁のスペースがなんだかもったいないと感じませんか?

I型キッチン吊戸棚なしイメージ図
I型キッチン 吊戸棚なし イメージ図

実は現在のキッチンに近づいたステンレスシンクのキッチンが普及し始めた戦後復興期から高度成長期は、狭い住宅事情の中においてとりわけキッチンのスペースが狭く、その限られたスペース内で少しでも多くの収納スペースを確保する必要があったんです。

まあ1970年代半ば頃までは、今の半分ほどの床面積に数世帯同居という状況も珍しくはなかったようですから…

そんな中に「キッチンボード」なんて洒落た収納を置く余裕もなく、「冷蔵庫」と「水屋」(食器棚がこう呼ばれてました…)を置くとキッチンがもうパンパンだったんですね。

というわけで必然的にダイニングの中に壁に向けてキッチンが設置されることが多く、また少ないスペースを有効に活用する必要性から考え出されたのがいわゆる「吊戸棚」というわけです。

時代の変化とキッチンレイアウトの変化

ところが1980年代から1990年代にかけて女性の社会進出が進み始めたころには、単体(セクショナル)キッチンに代わりシステムキッチンが本格的に市場投入されはじめます。

同時に住宅スペースが拡大するにつれてキッチンのレイアウトそのものがダイニング側へ向いた「対面レイアウト」へ徐々に移行しはじめます。

その傾向のまま2000年代以降は、まるで当然かのように「対面レイアウト」で設計された住宅が多く供給され現在に至っています。

対面レイアウトのキッチンをお使いの方は実感があるかと思いますが、ダイニングやリビングにいる家族の様子を見たり会話しながらの作業は疎外感が少なくなります。

さらにキッチンが家の中心となりキッチンに居ながらにして家族とコミュニケーションが取れるということが、実は日々の生活の様々な事柄の細かい部分での省力化にもつながってきます。

ご夫婦の明日の予定の話とか、子供との会話なんかもキッチンのカウンター越しにできますよね。

またキッチンキャビネット自体もスライド収納が徐々に普及しはじめ、普段使いする調理器具などはスライド収納内に収まり、かつて海外の方から『ウサギ小屋』と揶揄された住宅そのもののスペース事情もかなり改善され、核家族化が進んだり調理家電が超絶進化したりしてきたことから、キッチンまわりの収納については昔ほどの切迫度合いではなくなってきました。

このような時代背景や周辺環境の変化に伴うキッチンレイアウトの変化やキッチンスペースの変化が、行きつくところこの「吊戸棚論争」に大きな影響を与えているように思います。

吊戸棚のある場合とない場合のそれぞれのメリット

壁に向けて設置されたI型やL型キッチンを設置される場合は、遠慮せずぜひ吊戸棚はつけましょう。
壁付キッチンの場合、吊戸棚があって困ることは何もありませんので。

ここでは近年一般的になってきた対面レイアウトにおいて吊戸棚のあるなしについてみていくとします。

●吊戸棚がある場合のメリット
・キッチン廻りに収納スペースが多く取れる
・キッチン内の雑多な様子が隠れやすい
・手元照明を設置しやすい
・調理時の油煙等がダイニング等の他の部屋へ流出しにくい

対面キッチン 吊戸棚ありイメージ図
対面キッチン 吊戸棚あり イメージ図

●吊戸棚がない場合のメリット
・キッチンダイニングの空間が広く感じられる
・キッチン内に調理時の熱がこもりにくく、ダイニング等の空調がキッチン内まで届きやすい
・家族とよりコミュニケーションがとりやすい
・頭上に収納がないので、災害時や収納物を出し入れする際の落下の危険性がない

対面キッチン 吊戸棚なしイメージ図
対面キッチン 吊戸棚なし イメージ図

上記のようにだいたい相反する内容に当然なりますね。
なので互いのメリットのみを記載しましたが、気になるものはありましたでしょうか?

まとめ

まず上記で吊戸棚がある場合とない場合のメリットをご確認いただけると、吊戸棚の有無はただ単に収納量だけで選ぶものでもないとご理解いただけると思います。

「論争!」と大げさに書いてみましたが、結局のところあなた自身が必要かどうかという一点で決めることが大事なのかなと思います。

全体の収納量に対する必要性の検討はもちろん大切ではあるのですが、上記のそれぞれのメリットの中に「これ!」というものがあれば、それを軸に検討を進めていくのが良いように思います。

長年不思議に思っているのですが、吊戸棚に関しては「ある方がいいよ」「ない方がいいのに」と人にアドバイスしたがる方がなぜか多くおられます。

キッチンを選ぶときにワクワクする気持ちは皆さん同じですが、その中でも冷静に「自分にとって必要なもの」をご自身で検討できるように、頭の中を整理しておいてくださいね。
 

ちなみに吊戸棚(ウォールキャビネット)を設置する場合は、工事業者側で壁や天井などに補強を入れます。

壁にビスが効くようにあらかじめ下地材を入れたり、天井吊りの場合は天井裏に吊りボルトを仕込んだりする必要があります。

初めについていた吊戸棚を外すだけの場合はそれほど困難ではないのですが、工事を終えた後に「やっぱ吊戸棚欲しい~」となった場合は、再度壁や天井を切って開けて下地を入れる作業が必要になります。

新築でもリフォームでも下地の設置は工事期間中の比較的早い段階で作業が必要になりますので、吊戸棚の有無についてはできるだけ早く教えてほしいなぁ…というのが工事業者側の切なる気持ちだったりします。